娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

呼ばれなかった救急車

 平成29年5月24日午後4時の神戸市内の児童館。私の娘は背後から小2男子児童にバットで頭部を殴打され,その場に卒倒します。しかし,その場に救急車が呼ばれることはありませんでした。一般的には,頭部外傷を受けて倒れた人間に対して,救急車が呼ばれるものと考えられているものと思っていましたが,現場では救急車を呼ばない判断がされました。

 7月に指定管理者から送付された資料には,事件後1時間20分を経過してから業務用車で病院に搬送したことが記されていました。救急車が現場に来ているのであれば,事件の場合は警察に情報が入ることになっていますので,それもなかったわけです。救急車が呼ばれなかったことを確認できたわけで,私どもの指定管理者に対する疑問は,より明確になりました。

 その後,労働基準監督署宛の意見書や労災関係の書類にもそのことを記載しました。すると指定管理者から,救急車を呼ばなかったのは被害者が平常の状態にあったからとする反論文書が,私(父)宛に送られてきました。もちろん納得できない私は,救急車を呼ばなかったことの判断を誰がしたのかを問う文書を送りました。すると指定管理者代理人(弁護士)から,児童館長が作成した10月4日付「事実経過報告書」とともに,指定管理者の措置には瑕疵がない旨の文書送付がありました。7月の資料にすら疑問を感じるものしか用意できない人間が,5カ月も過ぎてからより信憑性のある資料を作成できるわけがありませんし,内容としても娘の記憶と異なるものであり,さらに不信感を膨らませました。記載内容は,会話ができた,歩行もできるなど,通常と変わりが無いということを強調したかったのだと思います。しかし,救急車を呼ぶべきとする被害者側の見解が,この程度の資料で変更されることはありません。また,この代理人文書には「誰が判断したのか」に対する回答は見当たりませんでした。

 私はこの問題について時間を費やすことは得策ではないと考え,「然るべき時期」の案件にしたい旨を代理人に返答し,代理人からはこれを了承する返事をもらいました。この問題について指定管理者との間でやり取りすることを,一旦ここで収束させます。これが事件後,半年頃の動きでした。

 その後,12月19日に事件のことが報道されましたが,この報道に対応する形で神戸市役所の課長が記者会見を行います。この記者会見の内容に疑問を感じた娘と私は,2日後に反論の記者会見を行い,その中で救急車が呼ばれていないことを説明しました。すると翌22日の新聞に掲載されますが,その中で神戸市役所(担当?)の「(被害女性が)会話できる状態だったため,近くの病院に連れて行くのが適切と判断した」とする取材への返答が掲載されます。さらに,2018年3月の神戸市会常任委員会でこの問題に関する質問があり,市部長は救急車を呼ばなかった理由について「脳の専門の非常に大きい病院が非常に近かった」と答弁しています。

 私どもは2018年5月に,事件以降の経緯を踏まえて神戸市長宛に「質問状」を提出しました。この中で救急車に関連する質問として,病院へ運ぶまで1時間半も経過していたことや,2カ所の病院を回っても有効な診断が得られていない状態は「適切か」などの質問していますが,得られた回答は「指定管理者の報告に書いてあるから」で「合理性」があり,「一般的な対応がなされている」というものでした。救急車が呼ばれていれば,このような質問自体なかったのですが,神戸市役所には後遺症に苦しむ被害者の悔しさを感知する感性もありませんでした。そんなもんでしょう。

 本来であれば,事件の夜,症状を把握している看護士などに見守られて落ち着いた時間を過ごせるものを,たった一人の自分の部屋で不安におののきながら過ごさなければならなかったことを,指定管理者や神戸市役所の「人でなし」に求めるのが間違いなのかもしれない。