娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

児童はなぜ野放しにされたのか

 今回も事件現場での対応に関して振り返ってみます。神戸市は,事件後の指定管理者の対応を「適切」としてきました。「適切」とするその対応への疑問は,被害者に対するものだけではありません。10/27『コトの重さをいつ意識した?』でも触れましたが,加害児童の処遇も疑問を残しています。

 児童は,他の児童に注意をしている娘の頭部を背後からバットで殴りました。事件翌々日の5月26日に児童の母親に事件の説明をし,その翌日に母親は学童保育の退会届を提出します。児童は児童館との関係をここで断たれます。この一連の動きについて,5月30日に娘は電話で児童館長から「出入禁止にした」と説明されます。児童館作成資料からは以上のことがわかります。

 児童の行動は,少年法にある「十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為」に該当すると私は考えます。少年法に基づく措置がされるべきだったと考えますが,児童館指定管理者はそうした対応はしません。神戸市に提出したこれに関連する二つの質問と回答を以下に記載し,改めて考えます。

①事件後の加害児童への対応について
[被害者からの質問・要約]
 他人を背後からいきなりバットで殴るという行為は明確な犯罪行為と考えますが,警察への通報は行われません。入院中の被害者に指定管理者から「少年を出入禁止」にした電話を受けますが,それで済むレベルの話ではないと被害者は考えます。指定管理者が少年法児童福祉法に則った措置をとらないのであれば,施設設置者としての指導があって然るべき状況だと考えます。神戸市は児童相談所を有しているので,施設と法的措置についての検討も可能と考えますが,警察が動き出すまで何も行われた形跡がないように窺われます。被害届提出前に内部的な話合いは行わなかったのでしょうか。有ったとすれば,法的措置をとらなかったのはいかなる理由によるものでしょうか。
[神戸市からの回答・全文]
 本案件は、小学2年生の関わった事案であり、非常に配慮を要する問題であると考えております。 一般的には、配慮を要する児童については、指定管理者が学校や保護者などと連携や情報交換しながら対応しております。当該児童についても、連携しながら対応してきたとの報告を受けており、加害児童の普段の生活の様子を身近で一番良く把握している指定管理者が、加害児童についての対応を決めることが適切であると考え、市としては見守っていたところです。

②事件としての認識について
[被害者からの質問・要約]
 背後からいきなりバットで後頭部を殴るのは「触法」と考えますし,それに伴う調査が行われる必要があったと考えますが,指定管理者が警察に通報しませんでした。事件の持つ触法性を問われるのは1カ月経過後に被害者が兵庫署に被害届の相談に訪れてからです。初動が遅れた分,調査が難航したことを警察の方から聞いています。被害者が指定管理者に警察による調査への協力を申し入れた日に,指定管理者から神戸市担当課に電話を入れられますが,この事件の持つ触法性について神戸市が意識されたのはいつの時点か教えていただきたい。
[神戸市からの回答・全文]
 本案件は、報告を受けた時点から触法姓があると認識しておりましたが、小学2年生の関わった事案であり、慎重に対応しなければならない問題であると考えておりました。

 

 神戸市は加害児童に関連する話になると,「非常に配慮を要する」とか「慎重に対応しなければならない」を付けたがります。市会での答弁もこうした言い回しを付けますが,私には深入りさせないための常套句にしか思えません。

 最初の質問で聞きたいことは,市として内部的な話合いが有ったかですが,そこは答えがありません。それはそれとして,市としては「指定管理者が学校や保護者などと連携や情報交換」するのを「見守っていた」ということです。施設設置者としての指導はなかったのでしょう。

 二つ目の質問で,警察が調査に入った時点から「認識」していたとの答えです。警察が入る前は認識しなかった,「加害者が存在するような事件」とは思わなかったと言いたいのだと思います。「出入禁止」で済ませた指定管理者と,「加害者」を認識していなかった施設設置者,ということです。ここから見えてくるのは,被害届が出されるまでの指定管理者や市の,事件に対する認識の「軽さ」という認識です(10/10『神戸市や指定管理者が考えた事件現場』)。

 しかし,児童は調査の結果,児童相談所に通告されました。そして児童のことに関して今年6月の市会常任委員会で,「課題のあるお子様」については指定管理者・保護者・学校で連携し「学童保育でどうやってお預かりする」かの「話合い」が設けられていて,加害児童の場合は「1年生の時も」話合いを続けていたとする答弁がされました。

 これが事実だとすれば,児童が「話合い」が必要な「課題のある児童」だったことが明らかにされました。しかし,そうした話合いだけでは触法行為を止められませんでした。しかも,少年法による「通告」などの措置も行なわれません。「出入禁止」で済ませ,そのまま放り出してしまったわけです。次の段階の指導・保護が必要な児童なのに,それが行なわれませんでした。こうした対応は「適切」とは言わないでしょう。

 

 私には,市には法的措置に向けて行動する,指導するという役割が有ったと考えます。しかしそうしなかったことは,施設設置者としての不作為にしか見えません。それだけでなく,初めて現場を確認した6月5日に,指定管理者に対して労いの言葉を贈り,そこで事件の収束を図ったように見えます。被害届提出前のことです(10/11『「事故」現場はどのようにできたのか』)。この6月5日の以前と以後の神戸市の事件対応について,大いに検証されるべきだと私は考えています。