娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

神戸市の「検証」を検証する

 今年3月の神戸市会常任委員会の質疑の中で,娘が被害者となった松原児童館バット殴打事件に関する質問が出ました。市会で取り上げられるのは初めてでした。市側は予想していなかったのか,それとも資料が十分でなかったのかはわかりませんが,答弁に立った部長は歯切れが悪く,部下が資料を持って駆け寄るシーンも見られました。この答弁に立った市部長は「通常の指定管理の運営の中で不手際が有ったかどうかも含めて、とりあえず検証はいたしました」と答えています。この言葉を聞いた時から,神戸市が事件現場や対応をどのように検証したのか,その内容を知りたいと思っていました。

 4月中旬に情報公開請求を行い,5月初めに開示がありました。事件に直接関連する部分としては「平成29年5月24に松原児童館において発生した,同児童館にて学童保育中の児童が職員の頭をバットで殴打した事件」として求めたものですが,開示のあった資料は以下のものになります。
  ①5/31の児童館から市へのFaxによる資料(児童館資料では5/29となっています)
  ②日付不明ですが指定管理者が対応した報告(一覧の項目だけで非開示)
  ③6/5に行なわれた市による児童館長へのヒアリング報告
  ④12/19に行なわれた記者発表に準備された資料
  ⑤12/21市内各児童館宛に連絡した職員体制に関する通知
  ⑥3/28に行なった弁護士との相談
 以上だけです。正直なところ,「これだけなんですか?」というのが私の当初の疑問でした。それはそれとして,これらの資料で「検証しました」ということに関連する資料は,③だと思います。残念ながら,日時・表題・関係者ぐらいで,中身は不開示でした。「特定個人が識別されるものであり、公開すると個人の平穏な生活に支障をきたすおそれがある」との理由です。個人のことはともかく,指定管理者の対応については開示が可能と考えるのですが。

 この6月5日の件については,今年6月の市会常任委員会でも質疑がありました。委員から,指定管理者から市への報告はあるが現場に足を運んだのかとする質問が出され,これに部長が「6月5日に職員が確認しに、現地状況を確認をしております」と答えています。いずれにしても,市部長が述べた「検証しました」は,この6月5日のことなのでしょう。そしてそこで検証された内容が,12月の記者会見で発表される内容ということになります(10/10『神戸市や指定管理者が考えた事件現場』)。加えて,これ以降の議会での答弁もこれをベースに語られ続けることになります。

 しかし,これでは片手落ちとしかいえない話です。先に「これだけなんですか?」というのが私の疑問と記しましたが,それは被害者による警察への被害届提出が,この6月5日の1月後になるということです。(10/27『コトの重さをいつ意識した?』)。被害届提出に伴う調査が行なわれ,加害児童が児童相談所に通告される,という法に基づく公の大きな動きが始まるのです。その動きに神戸市はどのように対応したのか,そのことが市の記録ではゴッソリ抜け落ちています。3月常任委員会での部長のうろたえを考えると,上司への報告の有無も考えてしまいます。
 被害者が被害届を出したのは,自分自身に聴力喪失など身体的に大きな被害をもたらした事実を確認したいこと,同様の事件が再び起きないことを願っての行動でした。そうしたものがゴッソリ「抜き落とされて」しまったのです。

 前掲10/27にも記しましたが,今年5月の神戸市への質問状で「事件の持つ触法性について神戸市が意識されたのはいつか」と質問し,回答では「報告を受けた時点から触法性があると認識しておりました」とあります。ここにある「報告」は,指定管理者から市への被害届提出情報の報告をさすと思いますが,前掲の情報公開の一覧にはこの「認識」を証明できる資料は入っていないのです。10月に行なわれた児童の通告に関しても,12月の記者発表資料の中に「児童相談所への通告は警察が行なったものなので不明」とあるくらいですから,「認識」そのものが虚偽の可能性もあります。

 これまでの部分を芝居に例えると,第1幕の悪代官とアコギな商人の話が終わったら幕がおり,大団円を迎えることなくそのまま芝居が終わってしまったような,客をバカにしたような話でしかありません。

 いずれにしても,警察や同じ神戸市こども家庭局に属す児童相談所の動き,法令に基づく動きへの対応がみられません。法令に準じた行動が求められる行政がそうした情報に対処していないということです。これ,まともなんでしょうか?被害者の後遺症や,加害児童の保護も行わなかったことの確認もしないで,「検証しました」と言い切ってしまう感覚は理解を超えます。

 私は昨年7/12にこども青少年課に電話を入れ,係長に娘の状況を説明しました。被害者側の初めての情報提供でしたが,その資料も情報公開では出てきません。無かったことにされたのでしょうか。「歴史」の「史」には「記録する人」という意味があり,それは現在の公務員に通じる記録する人たちです,という話を聞いたことあります。自らの行動を記録として残さない顕著な例がここにあります。