娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

再び,アイドル暴行事件を考える

 今年1月に報道されたAKB48の姉妹グループで,新潟市を拠点に活動するNGT48のメンバー山口真帆さんが暴行された事件について,娘の事件と共通するものがあることを以前記しました(’19/01/18『アイドル暴行事件で考えた』)。3月下旬になってこの事件に動きがありました。報道で見聞きの人も多いでしょうが,私にとっては「やっぱりな」の感じがありましたので,改めてこの問題に触れておきます。

 事件そのものは,昨年12月8日に山口さんが自宅に押しかけられたファンに暴行されたもので,犯人は警察に逮捕されています。事件が表面化するのは1カ月後で,山口さん自身がSNSにアップしたことで世間に知られることになります。「事件後1カ月」ということが問題で,山口さんもグループ内の他のメンバー関与に触れるとともに,「1カ月何も対処してくれなかった」と運営会社への不満を記します。加えて,山口さんが直後の公演でファンに謝罪したことから,被害者が謝罪する疑問への批判が続出することになります。こうしたあたりで前出のブログを書きました。

 その頃の週刊文春報道では,悪質ファンによる異常行動なども報じられ,アイドル活動自体に暴行の温床があった,事業運営そのものが要因を抱えていたことも明らかにされます。それにも関わらず,運営会社は第三者委員会を立ち上げています。要因を解決できない人たちが考えた委員会ですから,「第三者性の確保」に対する疑問もありますし,何よりも「第三者委員会を立ち上げれば世間は納得してくれる」的姿勢にしかみえないという印象がぬぐえませんでした。

 今月下旬になって,その第三者委員会の報告が出されました。運営会社では,それを「錦の御旗」にして記者会見を開きたかったようです。報告書を説明すれば,多くの報道機関がそれを報道してくれるだろうし,とりあえずそれで事件の鎮静化は図れると目論んだのでしょう。会見では,メンバーが関与した事実はないとし,複数のメンバーがファンと私的な接触を持っていたが今回は不問とする,などと説明したようです。
 ところがこの記者会見,ご承知のとおり,ここから前代未聞の展開を見せることになります。会見をネット生配信で見ていたであろう山口さんが,会社説明の欺瞞を次々とツイート。これに気付いた記者がヒナ壇の会社役員に問い合わせる事態となります。
 彼女のツイートでは,記者会見を行なっている取締役が「『繋がっているメンバーを全員解雇する』と私に約束しました」とし,世間的な批判が高まった被害者本人の謝罪についてもその取締役に「要求された」もので,山口さんや警察に事実関係を確認せず「私の思い込みのように虚偽の説明をしていました」とツイートを連発,「なんで嘘ばかりつくんでしょうか。本当に悲しい」とも記します。
 報道陣から指摘を受けた取締役は,歯切れの悪い応答に終始したようで,当然だろうなという感じです。取締役は記者会見冒頭で「山口とコミュニケーションを取ってフォローに努めたい」と説明し,会社と山口さんには隔たりが無いように振る舞いたかったのでしょうが,結果的には溝を深め,新たな疑惑を増やしただけでした(これまでの経過の中では,山口さんを支えてくれている人がいるのだろうか,孤軍奮闘でなければ良いけど,ということも心配です)。

 「錦の御旗」でコト足りると臨んだ姿勢そのものが間違いで,被害で傷ついている山口さんから事件の具体的な内容を聞き出し,寄り添って再発防止策を考え,形にしていくことが彼らの責務だったはずです。そのことにも気付かず組織を守る方向=保身に走り,事実を隠す・矮小化させたとしか思えません。だから山口さんが知る現場の事実や背景,それまで彼女に説明した言葉の欺瞞を突かれて答えに窮したわけで,事実の前には粉砕されるしかない中身だったのです。
 彼女は「なんで事件が起きてからも会社の方に傷つけられないといけないんでしょうか」と記しています。この事件は,この言葉に集約されます。組織に属する者を思いやれずにどうするの?起きた事実を確認せずに再発防止できるの?隠そうとすることが,暴力行為を容認することであることに気付いていないのも問題で,そのことはもっと批判されるべきだと考えます。

 私が今ここにこうしたことを書けるのは,娘の事件で学習したからです。娘が小2児童にバットで殴られた児童館の指定管理者は,施設設置者である神戸市役所に事実を矮小化して報告し,市は現場を確認することなく報告を鵜呑みにします。対処に疑問を感じた娘が被害届を出したにも関わらず,娘から事件現場のことを聞くこともなく無視します。娘が新聞記者と知り合えたことから,事件後半年以上経過して報道されましたが,神戸市役所は,娘が見ていた現場とは異なる説明をし,市会でも同様な答弁をしてきました。事実と異なる説明は,自らの組織を守る=保身にしか見えません。被害者という弱者の存在を理解できない人たちを相手にすると,被害者には二次被害の傷だけが増えます。事件を教訓とした再発防止策が立てられたという話もありません。

 組織を重視する考え方は,これまでの社会では当たり前でした。お国のために,会社のために,と。個人に犠牲を強いる社会。それが生活の安全や経済の安定をもたらしてもいました。それは今も小さくないと思います。しかしこれからもそのままで良いのでしょうか。かつての時代では有効だった方法が,いつまでも同様に有効とはいえません。これからは,個人を守れる組織であることが前提でなければならないのではないでしょうか。そう有ってほしいと願います。虐待・DV・いじめ・ハラスメント・・身近に存在する暴力に遭遇する部分が増えているように感じるからこそ,そう考えます。