娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

神戸市教委と学校の関係は

 前2回で取り上げた教師間いじめの事件。コトが大きい分,世間の関心も高く,報道も続いています。それらの報道を目にしていると,やはり気になることもありますので,本意ではありませんが今回も取り上げます。

 10月に入って間もなく露見したこの事件は,10月末日において市教育委員会が加害教諭の分限休職・給与支給の停止の措置を発表しました。加害教員が有給休暇の扱いになっていることに対する市民の苦情が多いことから,起訴される恐れのある職員を休職させた上で給与の支払いも停止できるようにする条例が,非常に短時間で可決・制定されています。教育委員会が設置した弁護士ら有識者による審査会では,その適用に対する異論も出たようですが,市は世間の納得が得られないと判断したのでしょう。何よりも,厳正処分によって世論の鎮静化を早急に図りたいとの思惑もあるはずです。そのあたりは,今後行われる懲戒処分の動向を見ていきたいと思います。

 今回の事件に取り組む教育委員会は,一方で自身が抱える事件の要因も指摘されています。事件発覚1週間後に行われた定例記者会見で,市長が小学校現校長の記者会見に触れ,「教育委員会さん」と「さん付け」しているのは教委と学校の意思疎通ができていないとの意見を述べたようです。神戸市教育委員会は以前から組織風土が問題視され,「組織風土改革のための有識者会議」を設けて検討を進め,その最終報告書が9月末に提出されているようですが,そのあたりも踏まえての発言なのでしょう。何か他人事的発言の印象も受けましたが,そのあたりは今年の8月から続いた「組み体操」問題でも感じた距離感です。市のトップとして教育長とはどのように意見交換しているのだろうか,と感じるところがありました。

 有識者会議の報告内容は,次期教育振興計画に反映されるとのことなので,その素案を見ました。「神戸市教育委員会の組織風土改革」との1節を設けており,「教育委員会改革方針」として4項目の取組みが掲げられています。この項目の前文に「平成30年4月に発覚した垂水区中学生自死事案に係る一連の不適切な対応及び教職員の不祥事を受け」との一文がありました。中3女子中生の自殺に関連して,市教委主席指導主事が先導していじめ事件を隠蔽しようと動いていたことが世間を驚かせ,嘆かせた事件です。今回の教員いじめも同様の不快な思いを広めていますが,先の方針4項目の最後が「教職員による不祥事の防止に向けた取組の強化」となっているのは何とも皮肉です。この2つの事件を並べると,組織風土の課題はかなり根深いもので,長い時間が関与しているのではないでしょうか。

 市長も触れた教育委員会と学校の関係に関しては,教員人事に関して独自の方法を持っていることを指摘する声が多いようです。勤務校と異動先の校長同士が協議して異動案を決め,市教委は追認するだけの「神戸方式」と呼ばれる独自の人事異動が定着しているということです。1960年代に地域事情に応じた人材確保として始まったようですが,長期化して弊害が目につくようになっても惰性のままにあったのでしょう。先に触れた「組み体操問題」にも共通する要因があるようにも感じられます。何より,一般的な教委の人事権を持ち得ないのは市教委と学校の関係にも及ぶことで,市長も「権限が実質はないのと同じ。これでは、学校現場と教育委員会の関係が希薄になるのが容易に想像できる」と語ったようです。

 この「権限」に関連して娘の事件でのことで一つ思い出しました。娘は事件に関して,加害児童だけでなく彼を取り巻く環境に問題を感じていましたが('18/10/05『考えられる事件の要因』),事件後,加害児童が通学する小学校から被害者である娘に対して何らかの連絡が入ることはありませんでした。そうしたことから1年後の2018年5月に教育長に対して小学校長との面談を要望しましたが,翌月,被害者が納得できない中身での回答がありました。これも書き出せばキリがないので,次の文面を紹介しておきます。「小学校長の在校児童に対する指導の範囲外で発生したもの」なので,「校長が面会してお話しさせていただくことは難しいと考えられます」と。これが教育長名による回答です。事務方が用意した文言でしょうが,自治体の教育行政を司る人の言葉としてはあやふやさを含む表現,他人事的回答と受取りました。教育長って一体何なの?,と。

 前段の「小学校長の在校児童に対する指導の範囲外で発生したもの」との表記は,今夏に報道された女子児童に対する男子児童の暴力行為の場合と明らかに違う立場です('19/08/09『神戸の児童館でまた,それ暴力』)。今年の姿勢はまともですが,娘の事件と比べると,児童館での児童の暴力行為であることに変わりはないのに,なぜこんなにも対応が違うのでしょう。5月に事件が発生し,7月に被害届を出し,10月には警察から児童相談所への通告もあったはずなのに,回答文では12月の報道から動き出したかのような表記になっていることも,疑問を膨らませてくれました。事件を矮小化した児童館指定管理者の報告を鵜呑みにし,検証をしようともしない市こども家庭局の対応に合わせた回答なのだろうと考えています。そうした意味では,神戸市長には教委だけでなく自らの足元にいる部下の行動にも関心を持ってもらいたいと考えています。