娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。4の付く日に更新しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

暮らしの変化で暴力の場が増えている

 新型コロナウイルス感染のピークは過ぎようとしているようですが,自粛を求められる辛抱暮らしはまだまだ必要なようです。疫病の流行が日本史の中では何度も繰り返されたと言われますが,現代人にとっては未経験の話ですし,自然災害ほど意識もしていなかったと思います。
 何よりも,一人ひとりの暮らしがこれだけ長期にわたって束縛されることは想像できませんでした。ほとんどの人がストレスを感じる暮らしの中あるのではないでしょうか。通常は学校や職場に出かける家族が,1日を家の中で一緒に過ごす家族間のギクシャクは早くから指摘されていました。加えて,生活を支える収入の不安定からの困窮の問題も表面化し,生活保護の申請も急増しているようです。「自粛警察」と呼ばれるような正義を振りかざす人も跋扈しているようですし,離婚相談が増えているという報道もありました。
 生活の不具合は至るところに出てきていて,人と人の間がトゲトゲしていっていることだけは確かでしょう。ストレスを自覚できているかどうかが大事なのでは,と私は考えています。家族が一緒にいる時間が長くなることだけが要因ではないのでしょうが,家族のあり方について一人ひとりが考えなければならないということもあるのでしょう。いるだけでは家族にはなれない,家族になるための心配りが必要だ,と。

 いずれにしても,こうした家族のズレから暴力が生まれている,暴力を伴う人間関係が増えていることを心の隅に置いてほしいと思います。つい最近警察庁が,1月~4月の配偶者などパートナーに対する暴力(DV)がついて,前年同月と比較して2%増えていて,コロナに伴う在宅時間の増加が影響している事案もあると発表しています。先週には,全国の配偶者暴力相談支援センターに寄せられた4月の相談件数が,前年同月と比べると3割増とする内閣府の速報値発表がありました。今月半ばには,全国の児童相談所が今年1月~3月に寄せられた児童虐待へ対応した件数が,前年同月比で1~2割増加していたとする厚労省の発表もありましたが,これについても自粛生活以前から増え続けていたものが,自粛生活でさらに増加したと考えられるとのことでした。

 こうした中で,暴力のことを考えるうえで気になる事件報道がありました。新聞掲載は27日でした。神奈川県横浜市で16歳の少年が父親を刺殺したとして逮捕された事件です。この少年に関して,昨年11月と今年2月の2度,当時住んでいた相模原市で,父親からの虐待の疑いがあるとして警察が児童相談所に通告し,児相が一時保護していたという経緯があったようです。1度目は家庭内トラブルに関する110番通報で駆け付けた相模原署員に少年が「暴力を受けている」と説明したことで児相での保護となりますが,父親に暴力を振るわないことを約束させ,今年1月になって一時保護を解除しています。2度目は,少年が交番を訪れて「家に帰りたくない」と相談したことからで,2日間保護しての解除となり,その後児相職員が面接した際は「学校生活を楽しんでいる」などと話したとありますが,言外に多くのつらい出来事が隠されているように感じられます。その後親子は相模原市から横浜市に転居していたようですが,今月になって父親の姉から「弟と連絡が取れない」と相談があり,住まいを訪れた署員が刺殺された父親の遺体を見つけたといいます。
 転居に伴う児相間の引継ぎはなかったとのことで行政対応の課題もあるようですが,それはそれとしても,この親子の間に横たわる闇の深さは,私に想像できるレベルのものではありません。父親による虐待行為はもっと以前から繰り返されていたことは想像できますし,その行為が父親自身をさらに闇の深みに引きずり込んでいたのでしょう。少年は身体だけでなく心の傷も大きくしていったはずです。逮捕後の少年は「殺意を持って刺した」と話しているようで,普通の親子関係からは想像できないほどの憎しみに覆われていたことは確かでしょう。

 私は,父親の暴力が少年の暴力を引き出した,少年が暴力を再生産したと受け止めています。一人の人間に暴力が棲みつく過程が垣間見えるような事件に感じました。娘をバットで殴った小2男児の暴力性を考えるうえでの示唆も感じました。
 多くの暴力は,見も知らぬ間柄で起こるのではなく,身近な間柄で起こります。身近な間柄がぎくしゃくしている今だからこそ,暴力が起こらない関係を考えなければならないのかもしれません。