娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

「子供に手錠」で考える

 先週12日のテレビニュースで,8歳男児に警察官が手錠をかける映像が流されました(『非情 涙の8歳に手錠』)。アメリカ・フロリダ州での2018年12月の出来事で,男児が教師をたたいたとして学校が警察に通報したものです。映像では,警察官が男児に「君はどこへ行くか分かっているかい?刑務所だ。刑務所に行くんだ。立って両手を後ろに回して」と言い,キャビネットに向いた男児が後ろに回された手に手錠を掛けようとしますが,「手が小さすぎる」と苦心しています。2年前の事件が今回報道されたのは,男児の母親が今月,手錠まで掛けたのは行き過ぎだと警察や学校などを相手に訴えを起こしたことによります。ニュースでは,この映像が公開されて市民から「やり過ぎだ」などと非難の声が続々と上がっているともありました。確かに衝撃的な報道ではありますが,伝えたかった主眼はどこにあったのかは,私にはイマイチでした。
 どこの国でも何らかの少年犯罪に関する制度を持っており,概ね教育的見地から成人とは別に扱われます。アメリカの場合,州によっても違うとはいえ同様な対応があるはずで,それに照らせばどうなのでしょう。他の報道によると,映像は警官のボディカメラがとらえたもので,母親の弁護士が公開したとのこと。男児は女性教員に暴言を吐いて胸部を殴ったようですが,ケガはなかったとされます。男児は逮捕・勾留され,暴行罪に問われたので母親は法廷で9カ月間争い,最終的には検察が起訴を取り下げたようです。取り下げについて郡検察は,男児の精神鑑定を行った結果の判断としているともありました。母親は男児に関し,注意欠陥・多動性障害などで薬を服用していることをあげているようですが,暴力行為にこうした理由をあげることに関しては,私は疑問を持っています。

 それにしても,男児による暴力で彼我の違いをどう受け止めようか。娘を殴った男児も小2なので,8歳か?小2の男児にバットで殴られました。被害者が入院するほどの傷を受けたのに,少年法に伴う措置が取られたのは娘からの被害届が出される1カ月も後のことで,この間,男児は野放しでした。児童館は「たたいた」と言いますが,私たち親子は「殴った」と言い続けてきました。神戸市は「たたいた」と「殴った」を行き来します。被害者に向き合って調べることもしなかったツケです。市は,事件半年後に報道されると,急に市内全児童館に職員加配に関する通知を出します。報道がなければその通知もなかったのでしょうか。通知前に行われた記者会見の新聞見出しが「職員加配も防げず」になっており,そのような説明をしたからなのでしょうが,なぜ加配したのに起きてしまったかを語るべき場面のはずです。市は,事件1年後の2018年6月の市会常任委員会で,加害男児が小学1学年時から小学校・児童館・保護者とで話合いを持つ「課題のあるお子様」だったと説明しました。児童館はその男児に関する対策を娘にどのように指示したのでしょう。話合いの一角にいる小学校との面談を被害者が望むと市教委は,「校長の在校児童に対する指導の範囲外で発生したもの」なので難しいと回答していますが,話合いに参加していた責任はどこにいったのでしょう。

 私は「子供に手錠を掛けろ」と言いたくてこの文章を書き始めたつもりはありません。子供の犯した暴力にどう向き合うかという話をしようと思っていましたが,その方向では書けませんでした。やはりここでも,子供に向き合う人たちが,本当に子供の行動を直視していますかという話になりました。これまで娘の事件で対応した人たちは,事件を軽くしようとする行動を繰り返してきたからです。あなた方が守りたいのは,子供じゃなく自分たちだったんですね,という話です。