娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

現場で少年法はどのように意識されているのか

 今月初め,法務省少年法の見直しに関する要綱原案を法制審議会の部会に示したとする報道がありました。選挙年齢や民法での成年年齢が20歳から18歳に引下げられることに合わせ,少年法の対象年齢を従来の「20歳未満」とするのか引き下げるのかが見直しの最大の論点とされ,3年前から議論されていたともありました。少年法は一般の刑事事件と異なり,少年の立ち直りに重点が置かれているため,手続き的には犯罪行為を行った全ての少年が検察官から家庭裁判所に送られ,家裁で少年本人や生活環境の問題性を把握したうえで指導方針を決めることになっており,重大な犯罪の場合は家裁から検察官に送り返すことにもなっています。今回の案では,18・19歳を中間層として上下の世代とは異なる扱いをするべきだとはしたものの,罪を犯した場合は全て家裁に送致する原則はそのまま活かされる形となっているようです。成年に近い少年の話なので私自身の関心はそれほど高くはありませんが,9月には承認の見通しとのことでした。

 私が少年法に関心を持つようになったのは,娘が小学2年の男児に頭をバットで故意に殴られたからです。それだけの暴力行為にもかかわらず,事件直後には警察の動きすらありません。どうにも納得できない日々が始まりました。その後,娘が被害届を提出し,少年は児童相談所送致となりますが,大人の事件との違い,戸惑うことが少なくありません。少年の更生を重視する少年法のもとでは報道も慎重にならざるを得ないところはあるにしても,事件そのものの情報が全く入ってこない状況に置かれ,被害者の存在も忘れられたようになります。

 少年法は20歳未満の未成年を対象としていますが,年齢によって処遇は異なり,13歳以下の場合は刑事責任年齢に達していないとして刑罰の対象にもなりませんし,犯罪行為ではなく「触法行為」と呼ばれます。また,犯罪少年・触法少年虞犯少年は「非行少年」と括られます。そうした非行を行った少年について児童福祉法では「要保護児童」とし,14歳以下の要保護児童は児童相談所に通告しなければならないことになっています。これらのことを踏まえて娘の事件を振り返ると,バットで故意に人を殴るという明らかな暴力行為をした児童には,事件後,少年法なり児童福祉法による措置が取られると考えるのが普通ではないのでしょうか。

 しかし,娘の事件初期において,これら少年法児童福祉法にもとづく手続きは全くされていませんでした。その措置が取られるのは,娘による被害届提出に伴う動きがあってからです。児童館では,少年の保護者を呼び出して児童館の利用を控えるよう説明し,学童保育の退会手続きを取っただけです。後は「知らん存ぜぬ」となるわけで,私が「野放しにした」と言ってきたのはこのことを指します。児童館設置者である神戸市には事件翌日に電話報告が入れられますが,対応した担当は、特段対応しないが落ち着いてからメモで良いので提出を,と返事をしています。娘が直接受けた暴力から考えると余りにもノンビリ,オットリな対応に過ぎます。
 自治体が設置した施設での事件で,なぜ法律に基づく措置が取られなかったのでしょう。法律を意識している現場の人間がいないというよくある話で済ますのでしょうか。法に合致しない対応というのは,少年の未来を考えたものと言えるのでしょうか。
 もっと根本的な疑問を記しておきます。バットで人を殴るというのは明らかな暴力行為です。児童館や神戸市の対応は,暴力を許容したことにはならないのでしょうか。暴力に対する姿勢は何も示されませんでした,これまで。