娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。4の付く日に更新しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

いじめの背後に横たわるもの

 先月下旬, 2019年度に全国の小中高校など約37,000校を対象に行われた問題行動・不登校調査に関し,文科省による結果公表が報道されました。いじめは前年度に比べて6万8千件増の61万2千件余で過去最多だったとしています。また被害者が心身に重大な被害を負ったり,登校できなくなったりする「重大事態」も121件増の723件,暴力行為の発生は7万8千件余,不登校の小中学生は18万1千人余で,いずれも過去最多とのこと。学校が把握した児童生徒の自殺は317人で,前年度の322人を下回ったものの深刻な状況が続いています。
 認知件数に関して増加幅が大きかったのが小学校で約14%(5万9千件)増,中学校は9%,高校は4%増ともあり,低い学年で増加しています。複数回答の内容別でみると,からかいや悪口などが約62%で最も多いようです。SNSなどによる誹謗・中傷が1万8千件ほどあり,5年前と比べると2.3倍に増え,小学校でも前年度から1千件増えて5.6千件となっています。7万8千件余の暴力行為についても,中学・高校では減っているものの,小学校では20%近く増加になっています。

 「いじめ防止対策推進法」が2013年に施行されて以降,文科省教育委員会などにいじめの認知を徹底するよう求めてきており,それに対応するようにいじめの認知件数は最多を更新し続けています。今回の数値が高かったことについて文科省は「以前なら見過ごされていたいじめを積極的にいじめとして認知しようとする動きが広がったため」としています。いじめ自体が増えたのではなく見逃されていた被害を直視するようになったとの見方です。そうした側面があると評価しつつも担当者は「残念ながら、どの学校でもいじめが全くないとは考えにくい」とも語ったようです。いじめの認知に積極的ではない学校があることが反映された言葉と私は受け止めています。
 特にいじめの「重大事態」については「いじめ防止対策推進法」に規定され,疑わしい段階でも認定するよう求められていましたが,認定に消極的な教育委員会と保護者とのトラブルが絶えなかったようです。文科省は2017年に「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」を作成してより具体的な例示も行い,被害者の訴えを尊重することを求めて「調査せずに重大事態ではないと断定できない」と明記して安易な否定を戒めています。しかしそれでも,学校現場や教育委員会の意識改革が遅れているとの指摘は絶えないようです。

 これも先月でしたが,福島市の市立小学校で受けたいじめによる不登校・自殺未遂の男子生徒家族が,「重大事態」に当たるとして要請した第三者委員会の設置について,市教委が拒否しているとの報道がありました。先に記したガイドラインでは自殺未遂を「重大事態」の事例として明記しており,学校側の判断に関わらず要請があれば速やかに第三者の入った組織が調査するよう求めています。それにも関わらず市教委は取材に「設置は市教委に一定の裁量がある」との見解を示したとありました。
 私には,市教委のこの見解が全く理解できません。いじめに関する法的・制度的指針が示され,社会的関心が高まっているにも関わらず,実際に起こっている事案への対応からは「なかったことにしたい」という保身の姿しか浮かび上がりません。旧来からのやり方に寄りかかって時代の変化に目をつぶっています。いじめの問題を加害児童と被害児童の問題に押し込めて「謝罪しているから解決した」的見解や,加害側が謝罪しているにも関わらず「受け入れない被害者の問題」的見解が報じられることも少なくないように感じています。被害者側の目線も含めて俯瞰的に調査を進めることで事実に近づく,事実に基づいて再発を防ぐ。そこに教育現場での信頼が存在するのではないでしょうか。

 子供の世界で起きている問題は「大人社会の反映」とよく言われます。大人社会における暴力の問題も,被害者側の視点に立つことで課題解決に近づく部分が膨らんでいくと私は考えています。なお,今回取り上げたいじめに関する統計は2019年度のもので,新型コロナウイルス禍に入る前の数字です。コロナ禍の今年は既に,長期間休む子を「コロナに感染した」と決めつけたり,親が医療関係者であることをからかったりするいじめに関する報道があったりしています。世情不安が増幅している今だからこそ,大人が試されることを改めて肝に命じておきたいものです。