娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。4の付く日に更新しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

ノウシントウは侮れない

 娘の事件に対する疑問,関係者に対する不信の出発点は,頭をバットで殴られて倒れた娘に対して救急車が呼ばれていなかったことです。頭にそれほどの衝撃を受けたら,安静にして直ちに医師の診察を受けるというのが私の常識です。そこから始まった不信の数々は,これまで記してきているのでここでは繰り返しません。ここでは,頭に衝撃を受けることの怖さについて記します。現在娘は脳振盪後遺症の治療と向き合っていますが,ここ1週間ほどでスポーツ界の脳振盪に関する報道があったからです。

 まず,大相撲の話です。現在行われている大相撲初場所10日目の幕下の取組で,非常に危険な場面があったようです。私は新聞報道だけで,動画は見ていません。湘南乃海と朝玉勢の一番で,立ち合いで互いに頭から激しくぶつかり合ったものの,取り直しとなります。ところが,湘南乃海が腰から崩れ落ちてすぐには立てなくなり,フラフラになりながら何とか立ったものの,仕切り線に手を合わすことができなくなります。明らかに脳震盪の症状です。そこで両力士を土俵下に下げ,審判団が土俵上で1分ほど協議をし,その後に取り直しの一番が行われて湘南乃海が勝利します。
 その後日本相撲協会審判部は,頭をぶつけ合うなどして脳振盪が疑われて勝負ができないと判断した場合,本人の意思を問わず取り直しはしないというルールを申し合わせたとありました。テレビの大相撲中継を見ていると,両力士が頭からぶつかり合い,「ゴッ」というような鈍い音を聞くことが少なくありません。現在の観客が少ない状態の中では,余計にその音はよく聞こえます。こうしたぶつかり合いが大相撲の魅力とされますが,脳は相当の衝撃にあっていると思います。こうしたぶつかり合いのシーン,娘の事件後の私には心乱されるものがあります。

 もう一つ,ラグビーに関する話です。ラグビーの「母国」イングランドなどで,選手時代の対策が不十分で脳がダメージを受け,障害が出たり認知症になったりしたとして,元選手9人が国際統括団体ワールドラグビー(WR)などに集団訴訟を起こす方針を固めたという報道でした。元選手の具体的な話として,2003年ワールドカップ優勝メンバーのスティーブ・トンプソン氏の例が挙げられています。スクラム最前列の中央を担うフッカーだった彼は,現役時代に練習で激しく頭をぶつけたこともあり,最近は道順や人の名前を忘れる深刻な状況で,試合結果や自分が大会に出たことも思い出せず,認知症の兆候と診断されたという報道内容でした。
 私は新日鉄釜石が日本選手権を連覇する頃からラグビーを好んで観てきました。選手同士が衝突して中断があった時,倒れた選手の頭にマネージャーが大きなヤカンで水をかけ,かけられた選手はすっくと立ち上がり,アナウンサーが「魔法のヤカン」と呼ぶシーンを何度も見てきました。ラグビーの試合では当たり前の風景になっていましたが,これも脳振盪の現場だったのです。今はそうしたシーンはありません。有ってはなりません。

 選手同士の衝突が発生しやすいスポーツにおいては,相応に対策が進められているようです。日本ラグビー協会日本アメリカンフットボール協会は,脳振盪からの復帰について年代や医療体制に応じたルールを定めています。日本サッカー協会は,今シーズンのJリーグで選手が脳振盪を受傷した場合,その前に何人の交代が行われているかにかかわらず交代できるようにするとのことです。ボクシングでは,頭部への打撃によるダウンの原因は脳振盪とし,KO負けした選手には出場停止期間を定めているようです。

 スポーツ界では脳震盪に対する準備が進められているようですが,一般社会での普及はそれほど進んでいないのだろうと考えています。娘の事件でも児童館関係者は,事件直後の娘が歩けた,普通の会話ができた,などとして重い容体ではなかったとしています。だから救急車を呼ばなかった,と。後付けの言い訳にしか感じられない理由はここでは触れませんが,「大丈夫か」と声をかけられて「大丈夫」と返答しつつも,後になってそうしたやり取りの記憶を残さないのが脳振盪です。
 病院で受診しても,CTスキャンなどの映像にはほとんど出ないとされることから見逃されることも多く,娘も脳振盪の治療にたどり着くまでに遠回りを余儀なくされました。現在では専門医が体の部位の子細な異常などから脳震盪を診断するようです。
 この脳振盪がそんなに軽いものではことを,まず知ってほしいのです。体の司令塔が異常をきたすわけですし,後遺症に悩まされることも少なくないのです。コロナ禍ではマイナス要因としての不安もあります。とにかく頭に衝撃があるようなことが起きたら,安静にして救急車を呼ぶ。そのことを誰もが学んでほしいのです。頭を打ったら救急車!