娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

労基署の対応を振り返って考える

 前回,娘の労災に関する「決定書」の記載に,労災医員の恣意的な記載があることを記し,それが労基署担当や労災協力者の事件に対する認識を象徴するものとしました。そこで改めて,労災担当者である労基署の対応について振り返ってみたいと思います。

 労災関係の手続きに「第三者行為災害」という申請書類があります。事故を起こした原因者が明確な場合に出す書類です。娘の場合はバットで故意に殴られていますので,小5男児という第三者がいるわけで,この書類の提出が必要になります。労災関係書類については事業所(児童館指定管理者)から入手した書類により提出していましたが,この書類が送られてきたのは事件から4カ月も経とうとする頃で,「労基署から提出のご指示があった書類です」の説明を付されていました。ところが書き方を見ると,労災関係手続きでも初期の段階で出すことになっている書類でした。そこで事業所に「なぜこの時期になったのか」と書面で問いました。これに対する回答は事業所の代理人(弁護士)からきましたが,その返答は「不慣れな手続きの中」で担当者が書類作成や確認作業に時間を要したということでした。数百人の従業員を雇っている組織が,まるで零細企業のような言い訳をして,と不信感を覚えていました。

 この件について改めて当時のメモを振り返ってみると,次のように整理できます。児童館は,労基署への最初の手続きの段階から「子供が振り回したバットがたまたま職員に当たって」「大したケガではないけど病院にもかかったので」的な説明をしていたはずです。児童館が事件(2017/05/24)翌日に神戸市児童館担当に電話を入れた際,市の担当者が「市として特段対応する必要はないが・・落ち着いてからメモで良いので送って」というノンビリとした返答をしていることを考えると,労基署に対する説明も同様の「軽い案件」で,もちろん児童による故意の暴力など存在しない=「第三者行為災害」書類を必要としない形だったはずです。
 しかしその後,被害者である娘から事業所の事件対応に対する疑問をもとにした行動が始まります。郷里での療養を終えた娘は,6月末に神戸に戻るとともに警察署へ「被害届」を出す相談を始め,7月初めに正式提出となります。7月中旬には私から,児童館施設設置者である神戸市担当に直接電話を入れて娘の窮状を伝えたこともあります。8月末には娘が労働者としての救済のない状況ついて,意見書を神戸西労基署宛に送ります。

 問題は,労基署がこうした状況にどのような対応をしたのかです。これまでの経緯で考えると労基署には,偶発的に起こった軽易な事故とする事業所(児童館)からの情報と,人生を台無しにされたと重大な事件する娘の情報が届いていたはずです。しかし労基署は,事業所の策略に引きずられたか,事件性を感じさせる重い話より簡易に処理できる軽い話が楽としたか,いずれにしても事業所の情報に傾きます。もちろん娘への接触はありません。その結果,「軽微な頭部打撲」との言葉に示される判断(『なぜ「軽微な頭部打撲」なのか』),その頃は別の文言かもしれませんが軽い事故とする話を選んだわけです。
 事業所は,労基署のその判断を得たうえで「第三者行為災害」の書類を被害者に郵送した,というのが実態だったと推測できるのです。事業所の労災担当はもっと早い時点で「第三者行為災害」に気付いていた節がありますので,「不慣れな手続き」としながら裏では舌を出していたのでしょう。「第三者行為災害」関連書類と同時に事業所から送られてきたのは,娘が提出した労災書類の記載に対するクレームでした(『脳振盪って軽くないんです』)。娘の記述は事件に巻き込まれた状況を正直に記しただけのものですが,それは事業所が「把握している事実関係」と異なる主張なので応じかねるという脅し的な強気の記載ができたのは,労基署を味方に取り込めたことを確認できたからでしょう。

 このことを考えるうえで忘れられないことがあります。娘はこの頃,労基署を訪れて何度か「いさかい」を起こしていました。事件を軽いものと判断した人たちと,重いものとして負わされている娘ではいさかいも起こるはずです。私も娘と労基署に赴いたことがあります。事務的なことの確認について話をしましたが,なかなか要領を得ない話し方で時間を費やす担当と,その後ろをうろつきながら私を睨みつける目付きの悪い上司がいました。冷静に話を進めて退室しましたが,私があそこですべきだったことは大声で怒鳴りつけることではなかったのかと思っています。暴力的だな,まずい。でも,労災補償に対する労基署が示した判断を見るにつけ,そう後悔しています。