娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

5年目の5月24日

 娘が小学生にバットで殴られてから5回目の事件日です。娘は事件翌日に帰郷し,そのまま入院しました。事件後に受診した医師に入院を指示されたようですが,神戸での入院に不安を覚えての帰郷でした。娘は「児童館で子供に,いきなり背後からバットで頭を殴られた」と話しましたが,子供とは思えぬその暴力性に戦慄とともに怒りを覚えました。平穏に過ごしていた娘の身に降りかかった児童の暴力行為は,娘の人生を大きく狂わせました。それ以上に関係者の不誠実な対応に悩み,考え込まされる日々が始まりました。5年の節目にそのあたりを振り返っておきます。

 まず原因を作った小学2年の男児に関連して。この男児について神戸市会における市担当部長の説明では,小学1年時から「課題のあるお子様」だったようです。児童館作成資料でも,学校と児童館で定期的に相談時間を特別に設けていたことが記されています。しかし私は,この児童の親に関しても「課題のある親」に思えてなりません。なぜならば事件以降きちんとした形での,娘なり家族に対する謝罪がありません。事件の触法調査を行った警察官の斡旋で,母親から被害者父である私に電話による謝罪は一度ありました。それだけです。保護者としての責任ある行動が見えません。もし私が加害者側にあるとすれば,暴力行為直後に被害者のもとへ駆け付け,謝罪します。親ならそれぐらいのことをするのは当然というのが私の考え方です。しかしこの事件の加害男児の親には,そのような姿勢を感じさせる行為は全くありません。道義的な責任感の不足といえばよいのでしょうか。被害者が望むのは加害者の責任を取ろうとする姿勢です。それが無いのです。

 もう一つの不誠実は,事件現場となった児童館の対応です。問題行動を起こした児童には,数日後に退会届を提出させて済ませています。先に記したように以前から問題行動が見られる児童が,より大きな問題を起こした時にそのような対応で良いのでしょうか。児童福祉法なり少年法を念頭においた判断や対応が求められるべきはずですが,それがなされていません。公の施設にある者の対応でしょうか,児童の将来にとっても適切な対応をいえるのでしょうか。否でしょう。
 児童館に関しては,雇用の問題もあります。娘は勤務時間の中で起きました。当然それに伴う補償がなされるべきですが,労災保険等の手続だけで雇用者としての対応はゼロでした。事件後の入院や療養に伴う休業に関する支援もありません。退職したわけでもないのに一切支援が無いのはなぜなのでしょう。それでいて年度末が近付いた2月下旬になったら,新年度の雇用継続に関わる意思確認書類が何の説明もなく送られてきました。とりあえず手続きはとっていました的な心無い対応としか思えません。労働者を雇用する組織としては課題ありの姿勢です。

 児童館は指定管理者制度により,神戸市から委託されて運営されていました。そこで起きた事件なのに,施設設置者である神戸市役所の姿勢も疑問だらけでした。この事件が報道されたのは,事件から7カ月も経過した17年12月でした。娘に取材した新聞報道が出されました。この報道に対応するため,神戸市こども青少年課長が報道日に記者会見を行っています。初めて市が表に出ましたが,その会見内容は娘の事件に対する認識とは異なるものでした。事件を矮小化した児童館の情報に基づくものだったからです。娘は一度も市から事件のことについて聞かれていません。市の施設で起こった事件について担当課が直接調査しないというのも,公の組織として考えると大いに疑問を感じさせる行動です。だから事件の事実が明らかになっていない,事実と向き合っていないと私は受け止めるのです。市は数年すると担当者が替わりますが,それをいいことに当時の女課長たちはのうのうと暮らしているのでしょう。被害者にとっては不愉快です。

 この事件は小学生が起こした事件なので,当然少年法の中で処理が進められます。事件を起こした少年は法によって護られ(隠され)ますが,それによって事件そのものが「無かったことに」されたように感じてなりません。児童の保護者や施設関係者などはそのことにホッとしているのでしょうが,被害者は悔しさを増幅させることになります。こんな少年法でいいのだろうかという疑問です。
 事件の事実は,今もって明らかにされていないと私は考えています。5年目の日にそのことを強調しておきます。