娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。4の付く日に更新しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

脳損傷がなかなか認められないのは

 労災に関連する記載を続けます。娘が事件後受けた治療に関連して,頭をバットで殴られたことによる受傷,中でも脳振盪後遺症に関連する治療を労災が認めないことに対する疑問は納得いかないままにあります。これまでも何度か脳振盪後遺症に触れてきましたが,最近学んだことを中心に整理しておきます。

 脳振盪も含めた脳損傷は「MTBI」と呼ばれます。「Mild Traumatic Brain Injury」の略で,日本では「軽度外傷性脳損傷」と訳されているようですが,医師によって違うこともあるようです。正式な和名になっていないのは,社会保障を受けることができない病のままに置かれているからです。そこには欧米と日本における,この症状に対する理解の差が示されているようです。
 欧米の動きを整理すると,1993年にアメリカのリハビリテーション医学会が定義を発表し,2002年に神経学会ヨーロッパ連盟がガイドラインを提示しています。2003年になるとアメリCDC疾病対策センター)がMTBIに関する連邦議会報告書を出し,患者が少なくないことや病後の経過が軽くはないことを示します。翌2004年には,WHO(世界保健機関)がMTBIに関する作業的定義を示し,救急病院で的確な評価がないとの警告も出します。さらにWHOは2007年の報告で,「急性期には悪化の危険性が高く」「若い患者でも3分の1が良好な回復を達成できない」と危険性を示し,「静かに進行しながらも無視されてきた流行病」として世界的な闘いに取り組むべきである,との警告を出しています。

 こうした世界的な動きの中で,日本でも専門医療機関脳神経外科医師による見解が発表されるようになりますが,欧米に比べるとその歩みは遅く,交通事故や労災事故などで正しく脳の病気と扱われない状態が続きます。そのためこの症状や障害に苦しむ人たちが,「軽度外傷性脳損傷仲間の会」「軽度外傷性脳損傷友の会」などの組織を結成して活動を始めます。こうした組織の働きかけたにより,2010年代に入ると多くの地方議会で「軽度外傷性脳損傷に関わる労災認定基準の改正と教育機関への啓発・周知を求める意見書」の採択が行われるようになります。住民からの要望を受けての形や議員発議の形で採択に至る経過をたどり,内閣総理大臣など宛に送られています。
 意見書の文面は,MTBIの発生メカニズムや知られにくい諸症状,WHO報告が示す警告,日本でも多くの患者がいると推測されるにも関わらず画像検査では見つからないこと,患者が労災や自賠責の補償において不利な状況に置かれていること,交通事故やスポーツ事故で子供たちが発症する可能性が高くなっていることなどが記され,労災での補償や労災認定基準の改正,画像に代わる判定方法としての他覚的・体系的な神経学的検査方法を導入,教育機関への啓発・周知を求める内容となっています。各自治体での文面が似通った内容で構成されているのは,先に記した会(組織)が標準様式を準備していることによります。

 地方自治体による動きに関連して国会でも,同様の内容でこの問題を取り上げる議員が登場するようになります。こうした動きに対応する形で,2013年には厚生労働省による調査研究報告が出され,都道府県労働局への通達が行われます。全国から収集した高次機能障害の事例を整理した報告で,受傷時の意識障害が軽度で画像所見も認められないMTBIについては高次機能障害を残す可能性を考慮する必要があることから,認定の傷害等級については厚労省で「事案ごとに」判断するという内容のものでした。
 しかしこの後も,自治体で意見書を採択する動きは続けられています。実際の労災や交通事故の補償に関する現場では冷たい判断が繰り返されているからです。「事案ごと」の判断が,方向性を示す場と現場でズレを生み出しているといえます。旧来の判断を変えようとしない人たちが,世界の流れに目をつむっているように私には思えます。

 最近の自治体の意見書文面では「SCAT2やSCAT3」という表現が見られます。「SCAT」は国際的な専門家グループによって開発された脳振盪に関する客観的(意見書での「他覚的・体系的」)な評価方法で,MTBIの専門医では常識のようですが,日本での判断基準としてはまだ十分に普及していないようです。娘の労災でも,労基署の判断に多くの疑問があることから,意見陳述の際に娘がSCATに関する質問をしています。予想通りではありましたが,的確な返答はありませんでした。
 世界標準になれない日本の一部が,MTBIの患者を苦しめているという話でした。

 

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