娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

ホームランで隠された暴力

 世上騒がれている事件に便乗する形になりますが,プロ野球中田翔選手の暴力事件の,その後があまりにもずさんに感じるので触れておきます。
 経緯を簡単に整理しておきます。プロ野球日本ハムファイターズ中田翔選手は,8月4日に函館で行われたDeNAとのエキシビションマッチの試合前,チームメイトに暴行を働きます。被害者が脳振盪を起こすほどですから,言い訳のきかないレベルの暴行のはずです(「脳振盪」の文字を見ると私は余計に反応します。脳振盪なら救急車は呼んだのだろうか?)。被害者が「本件を大事にしたくない旨の申告があった」との報道もあるので,被害届は出されなかったのでしょう。加害者と被害者の距離感を感じますが,これを知った日本ハム球団は事態を問題視し,中田選手を11日から無期限出場停止処分とします。中田選手は選手生命も危ぶまれる状態に置かれることになりましたが,拾う神が現れます。20日に巨人への無償トレードが発表されます。

 おかしなことはここから始まります。トレードの日限りで無期限停止処分は解除になります。翌21日には1軍登録されて代打で試合に初出場し,22日には『5番・ファースト』でスタメン起用されて移籍後初本塁打を放ちます。中田選手は移籍に際して,新型コロナウイルス治療の最前線に立つ医療従事者へ300万円を寄付したようですし,ホームランが飛び出した試合前では私が子供の頃から好きだった長嶋茂雄終身名誉監督から激励される一幕も報道されています。そのうえでのホームランでした。正常なトレードであれば「これで優勝が見えてきた・・・」とか,ファンにとっては大歓迎の慶事でしょう。
 トレード後の報道を振り返ると,マスコミには何か美談仕立てで取り上げているような雰囲気も感じますが,それ,違うでしょう。無期限出場停止処分という非常に思い処分を受けた選手が,無期限ではなく10日ほどで「普通」に戻ってしまったのですよ。トレードというのは選手の不祥事を隠す制度だったのでしょうか。出発点が暴力であったこと,それに対する処分が曖昧にされたままであることが問題なのです。よく巨人軍関係者が「球界の紳士たれ」的発言をするけど,紳士の行動とは思えない。

 もともと中田選手は「ヤンチャさ」のある人物と評されてきたとされます。「ヤンチャ」という言葉で暴力性を覆い隠してしまう言い方には以前から疑問を感じていますが,それであったとしても,彼は今回の暴力行為や自らの暴力性をどのように考えているのか,「無期限出場停止」という処分をどのように受け止めたのか,被害者の選手にはどのように謝罪したのか・・・。人間誰しも間違いは犯しますので,これもその間違いと受け止めたいのですが,それに見合う行動が見受けられないのです。プロ野球選手だからグラウンド上のプレーで名誉挽回したいと考えているかもしれませんが,これはプレーとは別の,人としての部分です。今回の事件で露わになった自らの人間性にきちんと向き合ってもらいたいと思います。

 何よりも反省しなければならないのは,プロ野球機構や関係者ではないのでしょうか。中田選手自身の資質から発したものであっても,人気選手個人を制御できなかった,暴力行為を容認した状態にあります。暴力行為を容認することは,どんな個人にも組織にもあっては許されるものではないはずです。国民に注目される人たちの組織が,そこを曖昧にする組織であってはならないはずです。自らが決めている協約に基づく処分をしておきながら「トレードとともにリセット」はないでしょう。まさに「口端も乾かぬうちの嘘」としか思えません。不祥事に対する処分が人気選手ほど甘い,という指摘が繰り返されてきたようですが,今回もそうなるのでしょうか。業界関係者の反省がうかがわれる行動が見当たらないという話です。「無期限出場停止」というならそれに見合う処遇であるかを検証のうえ,ここまで緩めた組織の人たちの処分があって然るべきではないのでしょうか。スポーツ界では今年も,暴力・パワハラで取り上げられるケースがありましたが,新たに1ページ追加です。広くスポーツ関係者に考えてもらいたい問題です。

 ホームラン翌日の某全国紙には,「中田(巨)移籍後初の先発出場で七回に左越え2ラン」と記し,「がむしゃらにいった。チームに貢献できるようがんばる」との中田選手のコメントを載せられていましたが,それだけでいいのでしょうか。ここは報道の人にも考えてほしいところです。これは暴力との向き合い方の問題です。