娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

被害者をどう考えているんだ

 およそ平穏な暮らしの中を暮らしてきた私は,身近に犯罪に伴う加害者や被害者と接する機会を持つことはこれまでありませんでした。もちろん,娘を加害者になるように育て方たつもりはないし,被害者になることすら考えていませんでした。

 事件は突然襲ってきました。事件の日の夜,娘から電話がありました。電話に出た妻(母親)も興奮している娘の話を即座には理解できなかったようです。翌日夜,新幹線でやっと帰って来た娘を駅に迎えましたが,事態を飲み込むには少し時間が必要でした。加害児童の行動や児童館の対応などを聞きながら,少しずつ事態を理解するとともに,怒りが積み上がっていったように思います。

 私の怒りもさることながら,娘の怒りは冷静になるとともに強固になっていったように感じられました。郷里での療養を終えた娘と神戸に戻りましたが,戻って最初に行ったのは病院の転院手続であり,次に行なったのが被害者支援センターに話を聞いてもらうことでした。この手配も娘が一人で進めていました。児童に殴られるという事件に遭いながらも,子供に関わる職業に就きたいという思いはさらに強まったように感じられ,そのことは頼もしく感じています。

 それでもやはり,つらいことの方が多かったはずです。事件前のような健康は取り戻せず,脳打撃に伴うさまざまな症状により,病院に通う日々も増えます。日常の仕事の中で,体力的な負担を感じることが多いとも言います。「生きてて良かったね」という言葉も,時には心に突き刺さるようです。

 そうしたこともさることながら,事件当事者への不信感は日毎に増したようで,それは私も同じでした。少年法に守られて事件前と変わらぬ生活を送る加害少年の親は被害者には連絡を取ることもなく,児童館の指定管理者は生活支援もしてくれませんでした。しかも,市役所は被害者に会うこともなく,被害者と異なる事件現場を平然と世間に語ります。

 そうしたこともあり,今年5月に提出した質問状にも被害者の苦衷を綴りました。「犯罪被害者への対応について」とするタイトルで,以下に質問と回答の全文を載せます。

[被害者からの質問]
 事件により心身ともに傷つけられた被害者は、郷里での療養を終えて神戸市内の生活拠点に戻り、事件前の生活取り戻すべく努力をすることになりました。そうした中で、自らの辛い経験を話す機会も出てくることになります。しかし、事件そのものがどこにも報じられていませんでしたので、話す内容そのものを信じてもらえなかったり、児童相手の被害届提出に対する観念的な批判を受けるなどの無理解にも遭遇し、その都度精神的な苦痛を重ねることにもなりました。しかし、身近で支援してくれる人や犯罪被害に対する理解を持つ人が現れ、そうした人たちに支えられて参りました。そうした方々の助言で、神戸市が行っている「犯罪被害者等生活支援補助金」をいただくこともできました。神戸市の犯罪被害者支援施策については承知しているつもりです。しかし、事件とその後の経過に関連して考えると、前回質問状にも記したとおり、被害者に事件情報の確認をすることもありませんでしたし、事件そのものの矮小化につながる話が発信されもしました。被害者が知る事実と異なる発信は被害者に苦痛を強いるものでしかありません。犯罪被害者支援のあり方についてどのように考えているのか、当該事件を例に説明していただきたい。

[神戸市の回答]
 市は、指定管理業務が適切に履行されるよう、必要に応じて指定管理者の代表者に対し指導監督する立場にあるため、本件についても指定管理者を通じ事実確認やその後の対応等を指示しております。報道においては指定管理者の報告に基づいて説明しており、誤った内容や矮小化につながるような説明はしておりません。犯罪被害者支援については、市は平成25年より犯罪被害者等支援条例を施行し、犯罪被害者等が受けた被害の回復・軽減に向けた施策を総合的に推進、犯罪被害者等の心に寄り添い、これを支える社会意識の形成などを目的として、相談窓口の設置や日常生活の支援を行うなどの対応をしております。

 以上が質問と回答の全文です。質問の核心は「犯罪被害者支援のあり方について」「当該事件を例に説明していただきたい」です。しかし,質問前文に記されている内容に,いつものように指定管理者を前面に出して反論を並べ,自らの正当性を強調するだけ。これまでの対応が被害者支援制度の対局にあると受け止めているからこそ,皮肉を込めて「当該事件を例に」としましたが,見事な建前論の返答です。被害者に対して調査すらしないほどですから,そもそも具体例を持ち合わせていないのですから。彼らが心無い人たちであることを確認しただけでした。無神経な神戸市役所の皆さんには,犯罪被害者等基本法の前文を,改めて,是非読んでいただきたい。

 これまでの資料を整理する中で,市の人々が事件初動でどのように行動し,その対応ミスをどのように取り繕ってきたかが見えてきたわけですが,それ以降,回答の全てがミスを覆い隠す言葉にしかみえません。それ以上に,言葉の影に隠れている,人としての姿勢に失望を増すだけのことでした。