娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

学童保育の職員

 昨年末の12月25日の新聞に「学童保育、職員1人も可能」とする記事がありました。娘の事件も学童保育の現場で起こったことなので,こうした記事を目にすると気になるようになっているこの頃です。

 記事の内容は、共働きやひとり親家庭の小学生を預かる放課後児童クラブ(学童保育)の運営に関し,現在は国が全国一律で1カ所につき2人以上の職員配置を義務付けているものを,条例で1人に変更することも可能にし,自治体の裁量を拡大するという内容でした。地方分権改革での学童保育関連提案には,「資格に係る実務経験の見直し」や「資格要件の対象者の拡大」などもあがっていたようで,職員数や資格などを「従うべき基準」から「参酌すべき基準」へと緩和する対応方針を示されていることが昨秋頃から報じられていて,それがここで閣議決定されたというわけです。
 しかし,これはあくまで国からの権限移譲や規制緩和といった分権改革の具体策としてのもので,学童保育の「質」を問う内容ではありません。私が気にするのはそのことです。

 付け焼き刃で記しますが,学童保育は,正式には児童福祉法に規定される「放課後児童健全育成事業」と呼び,高度経済成長期に,共働き家庭の増加や核家族化による「カギっ子」が増えたことで需要が高まったようです。40年ほど前に「留守家庭児童クラブ」のようなものが近くの公民館で行なわれていたことを記憶しています。現在は,少子化対策としての子育て支援事業の一つに位置付けられているようで,小学校の空き教室や公民館などを利用し,指導員のもとで子どもたちが宿題をしたり,遊んだりしながら放課後を過ごしているようです。

 私がここで触れたいのは,この事業にあたる指導員=職員の問題です。学童保育に従事する職員に関して,従来は統一された資格要件も存在しなかったようです。先に記した「留守家庭児童クラブ」でも,地域の子ども好きのご婦人が子どもたちの相手をしていたように記憶します。そうした中で2015年度から新たな基準が設けられ,概ね40名程に対して2名以上の「放課後児童支援員」の配置が義務づけられたようです。その資格に関しては,保育士や社会福祉士などの資格や教員免許状を有する者,2年以上児童福祉事業に従事した者などで,都道府県知事による「放課後児童支援員認定資格研修事業」に基づく研修を終了した者とされています。具体的には,保育士か社会福祉士,幼稚園・小学校・中学校・高校のいずれかの教育職員免許状,あるいは社会福祉学・心理学・教育学・社会学等の学士以上の学位などがあれば任用資格は満たされるようです。あずかる保育から育てる保育の方向に進めているのでしょうが,保育士や教育職員免許状のような国家資格制度にはなっていません。

 学童保育で働く職員資格がそれで良いのだろうかという疑問があります。集まってくる子どもたちは小学校からそのまま児童館に来るわけで,中にはさまざまな課題や障害を抱えた子どももいます。施設も専用とは限りません。小学校では専門資格を持つ教員がいて,長い教育現場の蓄積の中で子どもたちへの対応が進められています。しかし,同じ子どもたちを相手にする学童保育にはそれほどの専門性が確保されているわけではありません。

 娘の事件に関して述べると,事件を起こした児童は小学校1年生の時から問題行動を見せていました。神戸市役所に対して事件の検証に関する質問をしたところ,「障害児受入れによる職員の加配が当日適正に行われていたかどうかを検証」したとありました。職員の配置人数しか検証の対象にはしていないようです。

 先の職員を1人に変更できるというのも「基準を満たす指導員の確保が難しい」という事情からのようですが,逆に保育の質に格差が生まれるという懸念も出ているようです。何より私は,職員の数だけでなく,職員としての質や専門性に関する議論がもっと行なわれるようになってほしいと考えます。現在の状況の中で,課題を抱えた子どもがバットで職員の頭を殴ったわけですから。今の保育の質をもっと高める議論がもっと起こってほしいと願っています。