娘をバットで殴られて

2017年5月24日,神戸市松原児童館で小2男児が職員を背後からバットで殴る事件が起きました。その職員は私の娘です。事件についてのあれこれ,世に伝えられる暴力などについて考えたあれこれを記しています。私の名前は,久保田昌加(仮名)。

世間では救急車を呼ぶのが常識!

 娘はバットで頭を殴られたにも関わらず,救急車を読んでもらえなかった顛末は以前記していますが(10/09『呼ばれなかった救急車』),私は指定管理者の対処は間違っている,救急車を呼ぶのが常識だろうという気持ちをずっと持っています。神戸市役所や指定管理者は,事件時に救急車を呼ばなかったのは「適切」としています。そうした中で,私は次のような資料を入手しました。
 『頭部外傷10か条の提言 第2版』

http://sumihosp.or.jp/guide/schedule/documents/Protect_Your_Brain_2.pdf

(日本臨床スポーツ医学会 学術委員会 脳神経外科部会 2015年3月31日)で,スポーツ現場においては頭部外傷,特に脳震盪が少なからず起こることから,選手やコーチ,家族に対して現場での判断・対応を支援するために作られたものです。

 この中で,頭部外傷に伴う意識障害の評価に関する記載があり,医療現場で広く使われている意識障害の尺度である「日本昏睡スケール(JCS)」に触れています。1桁から3桁のスケールに区分され,数字が大きいほど重症とあります。

 1桁は「Ⅰ:刺激しなくても覚醒している状態」とあり,2桁の欄をみると「Ⅱ:刺激すると覚醒する状態」で「10:普通の呼びかけで開眼」「20:大きな声または体を揺さぶることで開眼」「30:痛み刺激を加えつつ呼びかけを加えるとかろうじて開眼」とあり,3桁の欄をみると「Ⅲ:覚醒しない」状態で「100:痛み刺激に対して払いのけるような動作」「200:痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめたり」「300:痛み刺激にも反応しない」とあります。

 そして,現場での対応に関して「2桁、3桁の意識状態は明らかに危険な状況で、すぐに救急車を要請すべきでしょう」とあります。この資料で考えると,娘のケースは明らかに2桁以上であり,専門家から見れば「すぐに救急車を要請すべき」状態であったことは明らかです。

 また頭部外傷は,「意識が障害されることが少なくありません。意識はあっても話し方や動作、表情が普段と違ったり、住所や年齢、今の自分のおかれている状況などを間違えたりする場合は、軽い意識障害であり、脳振盪を起こしている」とあります。

 指定管理者は,娘が「意識があった」「会話ができた」ので救急車を呼ばなかった理由としていますが,この資料で説明されている意識障害を起こしている状態で,決して軽度ではないことを理解すべきです。しかも「様子を見る」という理由で1時間半も放置するのが適切でしょうか。指定管理者や市役所の説明は,その根拠を失ったと考えています。

 事件は専門家がいる場所で起きたわけではありませんし,上記のような対応を心得ている人がどこの現場にもいるわけでもありません。私が問題視しているのは,情報が普及していないことを良いことに,救急車を呼ばなかったことを正当化しようとする姿勢です。「そうした情報に疎かった」「そこまで判断できなかった」と自らの判断に謙虚な姿勢があれば,被害者と指定管理者との溝はここまで広がらなかったと思います。知らないことを責めるつもりはありませんが,知ろうとする姿勢を欠き,反省すら感じられない行動が繰り返されました。なおかつそのことを自覚していない姿勢が反発を生み,ことを複雑な方向に導いた一因になったと考えてしいます。

 人間の行動として考えた場合,現場にあって本当に誠実に対応した場合,まず「自分は十分に尽くせただろうか」という「自省」が生まれ,尽くした相手に対して「足りなかったかもしれない」と謝意が生れるのが一般的だと考えます。これを事件にあてはめて考えると,精一杯の行動なり,措置に力を尽くしていれば「尽くし方が足りなかったかもしれない」との思いが,行動した者には生れたものと考えます。少なくとも指定管理者にはそうした姿勢はうかがわれませんでした。人の間で懸命に生きてきた私の経験値からの学びです。

 逆にいえば,現場での対応がいい加減で,十分に誠意を尽くした判断・行動がなかったからこそ,その不足を自らの正当性の強調に向けている,言い訳で済むと考えている,そのようにしか思えないのです。もともと命に対してぞんざいな人格なのか,何らかの下心があっての行動と推測するわけです。そんな指定管理者に人としての敬意を感じることが私には全くできません。加えて,そんな指定管理者に依存して言い訳の上塗りを繰り返す神戸市役所に人たちも同様の人種としか考えられません。

 これからは,何らかの事件・事故で頭部外傷の人がいた時,すぐに救急車が呼ばれることを望みます。神戸市役所が今すぐしなければならないことは,市内の全児童館を含む全施設に対して「頭部外傷の人がいる時には迷わず救急車を呼ぼう」と通知を出すことではないでしょうか。そのことを早急にしていただきたいと考えます。